第10回 - 無痛息災 顔面神経麻痺
ペインクリニックは痛みだけを診療しているわけではありません。今回は顔面神経麻痺について。朝起きると顔の片側が動かないなど、急に起こることが多く、皆さんびっくりされます。顔面神経麻痺は中枢性と末梢性に分けられ、中枢性は脳血管障害の事が多く、治療は脳神経外科の範囲です。末梢性は神経が脳から出た後に障害されたもので、見分け方は眉毛が動くかどうか。眉毛が持ち上がり額にしわができれば中枢性、眉毛も動きが悪くなっていれば末梢性です。末梢性顔面神経麻痺がペインクリニックでの対象となります。原因は顔面神経の浮腫と虚血。8〜9割は原因のはっきりしないベル麻痺で、残りは帯状疱疹ウイルスの感染で起こるハント症候群です。ハント症候群の時は、麻痺以外に耳の発疹と痛みが伴います。両者とも、額にしわができない、眼が完全に閉じない(閉瞼困難)、口元がたれて(口角下垂)食べ物がこぼれる等の症状があり、時には涙の分泌障害や味覚低下もあります。
治療薬は、副腎皮質ホルモン(ステロイド)で多めに投与し二週間以内に漸減、ビタミンB12、ATP製剤なども併用します。ただ、ステロイドは副作用も強く、年齢や糖尿病の有無、腎機能も考慮しなければいけません。ハント症候群は抗ウイルス薬も投与します。
若年者は改善率も高いのですが、高齢者の場合は回復が悪く、後遺症として、ひきつり笑いのような顔になる(顔面拘縮)、眼を閉じると口も動く(シンキネジア)、食事をすると涙がでる(ワニの眼現象)があります。このため、早く神経を回復させるために星状神経ブロックを行います。頚部に注射するブロックで血流を増加させ浮腫をとり除く目的で、初期は週3回行い改善と共に回数を減らします。治療が遅いと神経の変性が進行してしまうため、できるだけ早期に開始します。リハビリとしては、表情を大きく動かす運動や筋力強化の運動は拘縮を増悪するため避けたほうがよく、マッサージ程度か食事やしゃべる時に意識的に開眼させる運動が良いでしょう。